皆さんはワニ革が日本、しかも東京で生産されていることをご存じだろうか?
今回藤豊工業所様が工場見学を開催していたので、
参加させていただいた。
そのレポートである。
1枚のワニ革が完成までの工程の多さ、複雑さ、難易度の高さ、すべてが想像を超えていた。
少しでもそれが伝われば幸いである。
【1】塩漬けされて空輸された原皮
ワニを問わず、トカゲや蛇などのエキゾチックレザーは基本的に国外からの輸入が多い。
トカゲ・ヘビは乾燥された状態で船で運ばれるが、
ワニは塩漬けにされて、空輸される。鮮度命だからだ。
そしてワシントン条約によりキッチリと管理され、
どこ原産で、どこで屠殺され、どこに輸入されたか、
などの情報が記載されたタグ(画像の青いモノ)が付いている。
写真のサイズで3歳程度とのこと。
ワニは意外と長生きで、90歳くらいまで生きるらしい。
そしてなんと3歳くらいから90歳くらいまで現役で生殖できるらしい。すげぇ。
【2】加水処理
まず塩漬けにされて乾燥している革に水分を戻す。
ドラムに入れられ、グルグルと回してプルプルな状態に戻し、脱角(脱骨)工程に入る。
脱角工程とは要するに鱗取りだ。
大きさにもよるがこの段階ですでに1週間かかるそうだ。
完成までおよそ2ヶ月、長い工程の始まりだ。
【3】クロム鞣し
脱角工程が終わったらいよいよ鞣しだ。
ワニ革はほとんどがクロム鞣し+合成タンニン鞣しのコンビ鞣しとのこと。
金属のクロムを皮と結合させて革にする。
ドラムの中でグルグルされながらクロムが浸透していく。
【4】酸化クロム
これがクロムだ。非常に細かい粒子だから、革に浸透していくのだそうだ。
その後粒子を大きく膨張させて、抜けないように結合させる。
すでによく分からないが、そういうことらしい。
【5】ウェットブルー
クロムを浸透させて2週間ほど甕の中で寝かせると(エイジング)
画像のような薄い青色になる。ウェットブルーと呼ばれる状態だ。
この段階で、クロムの入り方にムラが出てしまうと
後々の染色工程でもムラが出てしまうので、リカバリが
非常に難しいらしく、この段階で革の良し悪しが決まってしまうらしい。
ウェットブルーの段階ではまだワニ本来の模様が少し残っている。
脱色して真っ白にする。
この時もドラム内で団子にならないように手作業で縫ってから
ドラム内に入れるなど手間のかかる作業を行っているとのことだ。
【6】シェービング(厚さ調節)
裏を削って、厚さを均一にしていく。
藤豊さんでは3回に分けてシェービングするそうだ。
1回目が肉を落とす最初の段階(3㎜位)
2回目がこのウェットブルーの段階(1.6㎜位)
3回目が染色後だ。(1.2㎜位)
もとから表面が滑らかな牛などと違って、凹凸が多いワニは
職人の技術によるところが非常に大きく、
下手をするとすぐに穴が空いてしまうので、難しい工程とのことだ。
【7】クラストという状態
脱色が済むと、一度乾燥させる。
それがこのクラストという状態だ。一応鞣しとはここまでのことを指す。
ここでも藤豊さんのこだわりがあり、
乾燥は基本釘で板に張り付けて乾燥させる手法がとられている。
しかも釘は、乾燥して革が縮むと抜ける程度の力加減で留められており、
これにより、ワニ革の特徴的な凹凸がしっかりと残るように工夫されている。
板に貼るので、乾燥するまで時間がかかるし、
縮むということはサイズも小さくなってしまうので、安くなってしまうし・・・
ということだったが、ここは顧客目線で!と言っていた。素晴らしいと思う。
※顧客の要望によってはフックでひっかけてネットで乾燥させる一般的な手法も取るとのこと。
【8】染色工程
ドラム染色工程である。
ドラム染色で狙った色を出すのは非常に難しく、
通常はドラム染色で6割くらいの色を出して、あとはその上にスプレーなどで調色をしていくらしいのだが、
そうした場合は色が飛びやすくなり、長く使っていくと色褪せが出てきてしまう。
だから、藤豊さんではドラム染色で9割まで完成色に持っていくらしい。
染色をして乾燥させて(1.5時間)
一度磨いて、色を見て、
0.05%赤色を足してみて
染色をして乾燥させて(1.5時間)
磨いて色を見て、
今度は0.03%紫を足してみて
染色をして乾燥させて(1.5時間)・・・
という途方もない時間をかけて狙った色を出すのだそうだ。
そしてここはかなりセンスのいる作業らしく、
例えば茶色の革を作るのに、隠し味にみみかき1杯分の紫を入れると
深みが出る・・・とかあるのだそうだ。
何色を作るのが難しいですか?という質問に対し、答えは意外にも黒(とグレー)。
黒の染料を入れて終わりではなく、4つの染料を混ぜて黒を表現している。
日本人は赤みのある黒が好きで、ヨーロッパ人は青みのある黒が好きだとか。
顧客の要望に合う黒は何か、何事も奥が深いものである。
【8】大量のワックス
これ、全部違う種類のワックスである(たぶん)。
革の色、仕上げによって使い分けたり、混ぜたりするとのこと。
色の薄い革は焦げにくいワックスを使って、バフ掛け後の変色を少なくしたり、
逆に焦げやすいワックスをかけて、色ムラを表現したり
多種多様な表現がここで生まれているようだ。
【9】ワックスがけされた革を乾燥中
スプレーでワックスがけされたワニ革が干されていた。
1日乾燥させて、そのあとバフ掛けされる。
【10】バフがけ
高速回転する布に当てて磨く。
見る見るうちに光り輝いてくる。
【11】バフかけの前と後
手前がバフ掛け後、奥がバフ掛け前だ。
一目瞭然だろう。
これで完成とする場合が最近は多いらしいが、
この後グレージングという磨き工程が入る場合もある。
メノウで圧力をかけて磨くのだが、エナメル加工のような強い光沢が特徴だ。
【12】様々な加工
革の加工技術は日進月歩で進歩しているが、
ワニ革も様々な表現が増えている。
最近は藍染めのワニ革が出てきているが、
藍は強アルカリ性で、革に対して非常にダメージが大きいらしく
それをいかに抑えながら染めていくかが難しかったとのこと。
パリの展示会では、ヌメ+藍染めのすべてが天然素材で作られた
エコワニ革が最も注目されたらしい。
皮革産業もご多分に漏れず、エコが重視される時代だ。
【13】研修を終えて
正直「あ、行ってみよ~」程度のお手軽気分で研修の予約をしたのだが、
参加してよかった。ものすごい勉強になったし、改めてワニ革を使った作品を作ってみたくなった。
価格が高い理由も納得したし、いつかワニを取り扱った時の接客で役に立つだろう。
また、機会があればいろんな研修を受けに行こう。
色々知った気になるのはまだ早いようだ。
Be First to Comment